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酒好き、映画好き、本好き、落語好き、バイク好き、そして鬱。 ちょっとばかり辛い日もあるけれど、フンニャロメ~と生きてます。
◎心にとめおく言葉
●人は、自分が見たいと思うものしか見ようとしない――ユリウス・カエサル
●為政者たるものは憎まれることはあっても、軽蔑されることだけはあってはならない。(塩野七生)
●自分に当てはめられない基準を他人に当てはめるべきではない
――ノーム・チョムスキー
●さまざまな知識人、文化人、政党やメディアは一般の人々よりも右よりな立場を取る――ノーム・チョムスキー
●考えろ、考えろ、考えろ!――ジョン・マクレーン

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4月1日、百貨店大手の三越と伊勢丹が経営統合し、持ち株会社「三越伊勢丹ホールディングス」を設立、新体制での営業を開始した。
売上高が計約1兆5800億円と国内最大の百貨店グループとなり、経営基盤の強化で生き残りを目指すとのことだが、長年、老舗の三越と新興(といっても創業は明治19年だが)伊勢丹のライバル関係を見てきた者にとっては、感慨深いものがある。
三越伊勢丹
「いやあ、そんないことないですよ」

私がジジイくさいことを言ったせいか、隣に座っているM君は、言下に否定した。
「三越と伊勢丹が合併しようと、もう大半の人間には関係ないことです」
彼は続けて言った。
「僕らのような安月給の人間が、デパートに行ったって、どうしようもないじゃないですか。どこを見ても高級店ばかり入っていて、ちょっといい靴があるなと思って値札を見ると9万円もするんですよ」

私とM君とは日光からの帰り、くたびれた体を特急電車のシートに預けながらビールを傾けつつ話をしていたのだった。

「そんな品物ばかりですよ。僕たちなんか、客じゃない」
「9万円の靴か。そりゃ、俺も買えないよな。すり減っていくと思うと履く気にもなれない」
「それより、脚を突っ込むものに何で9万も払うんですか」
「そりゃそうだな」
オープン記念祭
なんとも貧乏くさい会話をしたものである。
しかしM君との会話は、まだ続く。

「でもさ、世の中には9万だろうが10万だろうが、いいと思えば平気で買う奴もいるわけだろ。だからデパートは高級ブランドのテナント化してるわけじゃん」
「そういう金持ちは、ごく一部だけです。10万人に1人くらいしかいません」
「10万人に1人だとすると、日本では1300人しか金持ちがいないことになるよ」
「それは少なすぎますか。じゃあ、1万人に1人」
「それでも1万3000人。もっといるだろう」
「いやあ、せいぜいいるとしても5000人に1人くらいですよ。その連中が、高級品を買い漁っているんです」
「そんなことはないと思うよ。日本のGDPは世界3位なんだぜ。格差が広がっている現在、いわゆる富裕層は相当数いるはずだよ。でなければテレビでお一人様2万円のステーキだとか、寿司だとか、しょっちゅう紹介するはずがない」

ちなみにネットで調べてみると、米証券大手のメリル・リンチ社の調査が出ていた。それによると、2007年10月18日現在、100万ドル(約1億1,600万円)以上の金融資産を持つ日本国内の富裕層は147万人で、米国に次いで世界2位だという。
日本の人口が1億3000万人として、だいたい1.1%がいわゆる大金持ちということになる。
つまり、100人に1人強が金持ちというわけだ。

私たちが乗っている電車に800人乗客がいるとして、そのなかの8人くらいは三越伊勢丹に行き、9万円の靴をホイと買う。この数が多いのか、少ないのか。英国屋製のコートを5年越しで着ているM君と、しがない家内職人の私には見当もつかない。金持ちと、非金持ちとの差はそれくらいかけ離れている。

なにも9万円の靴を買わなくたって、べつに悔しくもないけれど、M君にしてみれば英国屋のコートがくたびれてきて、襟の折り返しがすり切れてきたら迷わず買い換えることができるようにはなりたいだろう。私だって、長年使ってきたバッグがくたびれてきたら、ハンティングワールドとはいわないまでも吉田カバンくらいは買えるようでありたい。

「僕らのような人間はね、酒を止めてタバコも断って、金を貯めようと努力しないといけないんです」
「それじゃ一生つまらないじゃない」
「給料が上がらない以上はそうするしかないんです。いい給料がほしければ、一流企業に入るしかない。でも、途中からでは一流企業に入るのは難しい。とすると、就職するときにそういう企業に入れるかどうかで人生が決まってしまうということですよ。僕の同級生でも、○△に入った奴は今、役職についていい給料をもらってます。はじめはサービス業なんて大変なだけだと思ってたけど、今では年収が僕と200万くらい違いますからね」

貧乏くさいうえに、世知辛い話になってしまった。
しかしM君にはIT企業を立ち上げた友人もいて、数千万の年収を得ていたらしい。それが、サブプライムローン問題の影響をくらって業績が傾きかけてきた。
「そいつは役員だから、もしかしたら責任取って辞職するかもしれない。でも、そういう奴はすぐ転職できるし、条件も悪くないんです。で、僕に愚痴るんですよ。『もし転職したら、年収が1500万になっちゃうんだよ』って。僕だったら1500万だってすげえ! と思うのに」

うん、その通り。1500万はすごいよ。
私には返す言葉もない。
それだけ稼いでいたら、もしかしたら三越伊勢丹に私も足を運ぶ気になるかもしれない。
ホイホイ気持ちよく買い物をして、少しはおだてられたりして、いい気分に浸れるかもしれない。

「今はね、金を選ぶか、職を選ぶかなんですよ」

M君は今時めずらしい熱血漢で、仕事好き。惚れ込んだ仕事なら、自分の金を持ち出してでもやり遂げようとするところがある。
私は彼のそういうところが好きだ。
しかし、彼が選んだ仕事はこの社会では構造的に儲からないように出来ている。
だから1500万も稼げたらすごいですよ、と言いながら、自分も1500万稼ぐようになるとは思っていないのだ。彼は金ではなく仕事を執ったのだから。

でもなあ、一流企業に入れるかどうかで人生が決まってしまうというのは、いまだに私には素直に受け入れることができないよ。
それを受け入れるということは、つまるところ、進学率のいい学校に入って一流校に受かることが大事だと認めることであり、それを認めることは、いい学校に入るためには子どもの教育に十分な金をかけるだけの経済的ゆとりのある家庭に育たなければならないということを認めることになる。
つまりは階級社会を認めることにつながるわけだ。

それは嫌だな。

育ちよりも氏の方が大切な世の中なんて、あまりにも夢がない。
今は300万の年収かもしれないが、来年は5000万稼げるようになる可能性がない社会なんて、面白くない。いや、数字だけの問題ではないのだ。自分が好きなことをやって、5000万稼ぐだけの可能性が拓けている社会でなければ、人間には生き甲斐を見出すことが難しい。

日本はアメリカに次いで金持ちが多い国だって?
私にはそれを信じていいのかどうかもわからない。
しかし、だから何なのだ? 証券会社や保険会社というのは、ほんとうに人の懐を探るのが好きなところだ。
金持ちの数を数えて、いったい何になるのか。
私はそう思うしかない。彼らからすれば、私もM君も、ものの数にさえ入っていないだろう。
めでたくオープンした三越伊勢丹も、相手にしないだろう。
今、東京には富裕層をターゲットにした店がいたるところに口を広げて構えている。
ミシュランガイドがベストセラーになり、掲載店は予約でいっぱいになる東京という街は、私にとってどんどん縁遠くなっていく。
そして遠くから眺める東京は、どんどんグロテスクに変貌していくように映る。

金持ちが多い。150万人近くいる。だから何だ。
それだけでは夢も希望もないではないか。
金持ちがいくら多くても、その他大勢にとっての幸せとはまったく関係がない話だ。
ほんらいならば、金持ちになりたい人間ならば誰でも金持ちになれるようでなければならない。
あるいは、金持ちなどにならなくても幸せを感じられる生活が送れるようでなければならない。
富める社会と富まざる社会とにくっきり別れてしまった今の社会には、あまりにも夢がなく、面白みもない。金が唯一の物差しになりつつあるこの社会は、明日生きることに楽しみを見出すことが難しい社会だ。

これはやっぱり政治が悪いのだ。
いい社会を作るには、いい政治が必要なのだ。私は日々、そのことを痛感する。
暫定税率の期限が切れて、ガソリンが値下がりしただけで、庶民の顔には笑顔が戻るではないか。
野党が本気で頑張って、いままでの惰性的な政治にヒビを入れただけで、世の中は変わるような気がするではないか。それは希望といってもいいのではないだろうか。
自民党と公明党による、あるいは新自由主義者たちによる悪政が、今どんどんあぶりだされている。年金問題しかり、防衛省の汚職、海自が起こした事故、ひとつひとつの事柄が、これまでの悪政と結びついて現れてきている。
もしかしたら、今は膿を出し切る時期なのかもしれない。
そして悪い膿を出し切った後には、今よりもう少しはましな社会が生まれるかもしれない。

せめてそんな希望を持たなければ、今飲むビールも苦いばかりで楽しめないというものだ。


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