●人は、自分が見たいと思うものしか見ようとしない――ユリウス・カエサル
●為政者たるものは憎まれることはあっても、軽蔑されることだけはあってはならない。(塩野七生)
●自分に当てはめられない基準を他人に当てはめるべきではない
――ノーム・チョムスキー
●さまざまな知識人、文化人、政党やメディアは一般の人々よりも右よりな立場を取る――ノーム・チョムスキー
●考えろ、考えろ、考えろ!――ジョン・マクレーン
生け垣の向こうを通りがかった子どもたちが、そんな声を上げていた。
生け垣のこちら側では、私が涙目になって庭のベンチに腰掛けている。
「いい匂いだろ。燻製を作ってるんだよ」
私はぼそっとつぶやいた。
ただし、ウィンナじゃなくてベーコンだけどね。
そう、日曜日の今日は、一週間前から仕込んでいたバラ肉をベーコンに仕上げる日なのだ。
天気はよし、もうすっかり春の日差しになった太陽の光が降り注ぐ。
もう冬物のシャツでは汗ばんできそうだ。
これで気分がもう少しよければ。
外には光がさんさんと照っているというのに、私といえば相変わらず午前中は調子が悪く、部屋のカーテンを閉め切って寝込んでしまう。
ようやっと起き上がり、いつまでも重心が定まらないアタマに顔をしかめながらも、私はプログラムされたロボットのように冷蔵庫から肉を取り出し、庭に出る。
スモークチップとバーベキュー用の炭は昨日のうちに買ってある。
ほんとうはリンゴのチップが欲しかったのだが、どういうわけか、いつも行くホームセンターにはリンゴがなくなっていた。仕方なく、サクラのチップを買うことにした。
スモーカーの皿に火をつけた炭をいくつか置いて、その上にチップをばらまく。
……チップをばらまく。
まるで金持ちになったような言い方だ。
たちまち煙が噴き上がり、チップをばらまいたお大尽の私は一瞬にして涙目となってむせ返る。

たこ糸で肉をくくりつけ、金網の上にはカミサンに茹でておいてもらった卵を置いて蓋をする。
さあて、これから5時間か6時間。
たっぷり時間がかかる。これこそスローフードってか。
真面目な私は、その間に仕事もしようと、残っている校正原稿を持ってきている。
ベーコン作りながら仕事もしちゃおうというわけだ。
しかし、ベーコン作りは何にもしなくていいようでいて、スモーカー内の温度が上がりすぎないようにしなければならないし、煙が出続けるようにときどきチップを足してやらなければならない。
ほれ、チップだ。
お大尽の私は、気前よく、口を開けているスモーカーに木片を放り込む。
スモーカーは機嫌がいいのか悪いのか、ふたたびモウモウと煙を吐き出す。
そんなこんなをやっていると、結局、仕事どころじゃなくなってしまう。
うまく行かないものだ。
しかしまあ、お日様がだいぶ傾いてきたころには、いい感じのベーコンと燻製卵が出来上がった。

今日はこいつを肴にバーボン・アンド・ソーダを飲るのだ。
うつ病者のささやかな幸せ。
ワンコも食いたそうだが、私と目が合うとすっと顔を背ける。
変な奴、ワンコって。

■追記
以上のブログを書き上げ、さて一杯やろうかと居間に降りると、その不幸が待っていた。
なんと、食いしん坊の我が女房と娘が、ベーコンの大半をつまみ食いしてしまっていたのだった。
愚妻曰わく、
「今度から、ベーコン作るときはまとめて作ろうね!」だと。
ブ、ブァカヤロー!
ぐれてやる。(棒読み)……(c)美爾依さん
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